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吉田健一

吉田 健一
(よしだ けんいち)

CMO(最高マーケティング責任者)
戦略コンサルティング会社を経て、Abalance社CMO(最高マーケティング責任者)。KM・情報共有・企業変革コンサルティングをソニー、NTT、丸紅等の国内外の大手企業に対して手がける。

懸山聡

懸山 聡
(かけやま さとし)

プリンシパルコンサルタント
関西大学大学院 工学研究科 修士課程修了
コンサルティング会社 大手 アクセンチュアのコンサルタントとして国内外のハイテク産業・情報通信産業の大手企業に対してコンサルティングを実施。Abalanceでは、ソニー、ファイザー製薬、鹿島建設、戸田建設など、主に製造業に対するコンサルティングを実施している。

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ベテラン技術の継承が「モノ作り日本」を救う

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CMO(最高マーケティング責任者)
吉田 健一
マーケティング・ディベロップメント・グループ プリンシパルコンサルタント
懸山 聡

 2007年前後に、団塊世代のベテラン社員が大量に退職する。この「2007年問題」を直前に迎えた今、ベテランの持つ高度な技術やノウハウをいかにして若手に継承していくかが、日本のモノ作りの将来を左右する喫緊の課題である。本稿では「ベテラン技術の継承」を実現する「人中心」の3つのアプローチを実例に基づき解説していく。

1. 2007年問題、今そこにある危機

JRの脱線事故はなぜ起こったか?

  2005年4月、JR尼崎駅で発生した脱線事故によって100名以上の尊い命が奪われた。事故の原因は、線路・車両の整備不足や列車自動停止装置の不備、過密すぎるダイヤ、問題ある勤務態度など様々な要因が取りざたされているが、一つ忘れてはならないのが若年層運転手に対する「技術の継承」の問題だ。

図1:JR西日本の従業員年代別比率

 図1はJR西日本の年齢構成である。旧国鉄時代に大量採用された社員はいまやベテラン50代となって退職しつつある一方で、本来主力となるはずの30代・40代は民営化に伴う採用抑制で層が薄く、若年層がその穴を埋めている。今回の事故はこの人員構成の危ういひずみの中で起きた。もちろん「若いからといって未熟」とは言い切れないが、ベテランの危機対応・判断能力を若年層に「継承」する仕組みが機能していなかったという可能性がある。

 こうした「ベテラン技術の継承」は何もJR西日本に限ったことではなく、日本の製造業全体に深く根ざす問題である。ここ数年を振り返ってみても、2003年のブリジストンの火災事故に始まり、数多くの製造現場で大きな事故が発生した(図2)。実際、製造現場の事故は増加傾向にあり、重大事故の件数は平成10年の93件から、平成15年の129件へと約40%も増加している。事故増加の背景には、「ベテラン技術の継承」の問題が見え隠れする。

図2:2003年以降の主な生産現場事故

2007年、技術の継承が危ない

 「ベテラン技術の伝承」が注目される一つの背景が「2007年問題」だ。2007年は、団塊の世代で一番多いとされる1947年生まれの人が60歳定年を迎える年である。約300万人とも言われる団塊の世代が大量に退職することによって、ベテランがもつ高度な技術やノウハウが企業から失われてしまうのではないか――これが「2007年問題」だ。「高度成長期にプラントを新設したことのある経験者がいなくなってしまう」「旧型設備の保守ができる人材が流出してしまう」といった問題に多くの企業が直面している。

 一方、技術を継承される側の若年層はというと、コスト削減で要員が極限まで絞られている上に、新規の工事も減少傾向にあり、以前のように余裕をもってOJTができる機会はほとんどない。にもかかわらず技術の多様化により各個人が身につけなければいけない技術の幅は増加傾向にあり、ベテラン技術の継承はますます困難になりつつある。

 技術の継承ができなかった場合のインパクトは計り知れない。トラブルや事故といった直接的なダメージに加えて、品質・コスト・スピード(QCD)がじりじりと悪化し企業競争力は低下していく。そして、最終的には「モノ作り日本」の衰退へとつながりかねない。こうした日本の状況は、80年代の米国を彷彿させる。日本との競争に追いやられた米国製造業はリストラを断行、現場空洞化によって生産現場が荒廃し、結果としてプラント事故が多発した。米国製造業の品質・コストの競争力はじりじりと低下し、スペースシャトルの打ち上げ失敗により技術力の低下が世界に露見したころには、GDPに占める製造業の比率は15%までに減少し、大幅な貿易赤字だけが残されることになった。米国の轍を踏まず「モノ作り日本」を維持するためには、なんとしても「技術の継承」を実現する必要がある。


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