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吉田健一

吉田 健一
(よしだ けんいち)

CMO(最高マーケティング責任者)
戦略コンサルティング会社を経て、リアルコム社CMO(最高マーケティング責任者)。KM・情報共有・企業変革コンサルティングをソニー、NTT、丸紅等の国内外の大手企業に対して手がける。

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自己変革組織の実現による現場力強化

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CMO(最高マーケティング責任者)
吉田 健一

2. 21世紀の軍隊:ランドウォーリアー

 ところが、先進的な組織ではこうしたピラミッド型組織の弊害を乗り越える取り組みを行いつつある。ピラミッド組織の枠組みは維持しながらも、その硬直性を打破し環境に合わせて柔軟に組織を自己変革するための仕組みをビルト・インしているのだ。まずは米国陸軍のケースを見てみよう。

 ピラミッド型組織の産みの親である米国陸軍でも、対ゲリラ戦、対テロ戦という、刻々と状況が変わる不確実性の高い戦闘が増えるにつれ、旧来のピラミッド型組織が機能不全を起こしつつあった。「ブラックホーク・ダウン1」という映画をご存知だろうか。この映画では92年のソマリアにおける米軍対ゲリラの市街戦が描かれている。米軍は神出鬼没のゲリラを前に、陸上部隊、ヘリコプター部隊それぞれの情報がうまく流れずに混乱に陥り、急展開する戦況に対応できないまま、大きな損害を出した。このソマリア戦は、「20世紀型軍隊組織」の限界を深く考えさせる結果となった。

図2:21世紀の軍隊~FORCE XXI~

 そこで米国陸軍は、94年に「Force XXI(21世紀の軍隊)2」と名づけたビジョンを発表する。そこにはこれまでの軍隊では考えられない内容が描かれていた(図2)。各部隊がネットワークで結びついたネットワーク型組織に変化、直属の上官以外にも他の部隊とのコミュニケーションラインが張り巡らされており、従来トップに集中していた情報は組織全体で共有される。また、これまで本部だけが持っていた権限、例えば「ロケット砲を発射する権限」も末端の兵士に委譲、各兵士がリーダーとしての権限を持ち、目の前のチャンスを生かして戦闘に挑む。単に上官の指示に従っていればよかった時代とは異なり、各部隊の兵士には他の部隊と直接コミュニケーション・調整を行ったり、自分で情報を収集・判断した上で自律的に行動を決めたりといった高度な能力が求められる。それは、20世紀の「ピラミッド型軍隊」を超えた「21世紀の軍隊」であった。

 そして2003年、ビジョンは実戦フェーズに入った。今回のイラク戦から投入された「ランドウォーリアー」と呼ばれる完全情報武装化した兵隊は、各自が携帯情報端末を持ち、モニターには戦場のすべての情報が表示され、兵士は瞬時に状況判断できるようになった。このSFのような世界が、21世紀の兵士の姿なのである。

3. フォード社の組織再生計画

 もちろん、企業組織でもピラミッド型組織への挑戦は行われている。フォード社は、売上1,600億ドル、世界シェア16%を誇るグローバル自動車メーカーである。傘下にマツダ、ボルボ、ジャガー、リンカーンといった多様なブランドと、従業員35万人を擁する巨大企業グループだ。今から100年前、フォード社の創設者ヘンリー・フォードは中央集権の「ピラミッド型組織」を考案し、フォード社を一大自動車メーカーへと発展させた。フォードが生みだしたコマンド&コントロール型マネジメントと大量生産方式は、その後あらゆる産業に取り入れられ、20世紀の近代企業の礎となった。

 しかし、この20世紀を代表する企業も、近年、大きな変革の波にさらされることになった。自動車産業は完全なグローバル競争へと突入し、世界シェア10%を超える巨大メーカーのみが生き残れるメガ・コンペティションの時代が到来した。各メーカーは競争にうち勝つために規模を拡大させると同時に、市場と環境の変化に俊敏かつ柔軟に対応していくことが求められる。そして、常に世界レベルの「オペレーショナルエクセレンス」を実現すべく自己革新し続けることも生き残りのための必須条件となった。こうした新たな環境に対応できなかったフォード社は、2001年度に赤字へと転落した。

 フォード社では、競争優位を取り戻すべく様々な取り組みが行われたが、これまで行われてきた様々な活動――M&Aによる規模の拡大、各事業所における生産性向上、そして短期的なコストダウンを企図したリストラ活動――の延長線には、再生の姿は見えなかった。

 そこでフォード社では、2002年、再生の「鍵」として「組織再生計画」を発表した(図3)。それは、工場労働者を底辺とする巨大なピラミッド型組織を丸ごと逆さにし、逆ピラミッド型に変えるという計画であった。顧客に最も近い現場に大きな権限と情報を持たせ、自律的な判断で変革を進めることによって、消費者の多様なニーズにすばやく対応しようというものであった。

 同時に、「ベストプラクティスリプリケーション(BPR)」と呼ばれる現場主導のナレッジマネジメント活動が推進された。これは、各事業所で生み出された革新的な仕事のやり方、プロセスやルール、考え方などの「型(プラクティス)」を他の事業所に横展開することによって、巨大な組織全体における自己革新を実現しようという試みであった。現在、製品開発、設計、製造からサービスに至るまで53の分野で情報共有活動が行われるようになった。

 フォード社における企業再生は発展途上であり、企業再生への道半ばであるが、これまでの活動によって現時点で10億ドルの経済効果を創出したと発表している。

図3:フォード社の組織再生計画