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懸山聡

懸山 聡
(かけやま さとし)

プリンシパルコンサルタント
関西大学大学院 工学研究科 修士課程修了
コンサルティング会社 大手 アクセンチュアのコンサルタントとして国内外のハイテク産業・情報通信産業の大手企業に対してコンサルティングを実施。リアルコムでは、ソニー、ファイザー製薬、鹿島建設、戸田建設など、主に製造業に対するコンサルティングを実施している。

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シックスシグマ & ナレッジマネジメントによる学習する組織への変革

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マーケティング・ディベロップメント・グループ プリンシパルコンサルタント
懸山 聡

 ナレッジマネジメントの導入効果が明確に現れずにいる企業が多い一方で、近年注目され始めたシックスシグマとナレッジマネジメントを融合させた手法によって、10億ドルもの経済効果を生み出す企業が登場している。シックスシグマとナレッジマネジメントという、相互に関連がないかに見える2つの経営改善手法を組み合わせて導入している背景には、課題解決を継続的に行い、学習する組織へむけた変革を実践しようとする意図があった。本稿では、実践事例を詳細に紹介しつつ、シックスシグマとナレッジマネジメントを組み合わせて導入するための重要な要素と課題を探る。

1. 従来型ナレッジマネジメントの限界

 90年代中盤以降、IT化の波と共に、多くの企業がナレッジマネジメントの導入を試みてきたが、その結果、経営効果に好影響を及ぼしたという話はなかなか耳にすることがなかった。一方、欧米や国内の一部の先進企業においては、ナレッジマネジメントによる企業変革を実践し、明確に経営効果を生み出しているという報告もちらほらと聞かれるようになり始めている。しかし、導入している企業数を鑑みると、その成功している割合は極めて少ないのが現状である。ナレッジマネジメントによる経営効果を確認できるようになるまでには時間が掛かると言われているが、導入して時間が立てば自動的に効果を生み出すような代物ではない。

 そこで、本稿では、ナレッジマネジメントの導入に失敗している企業の特性を明らかにする一方で、近年ナレッジマネジメントを成功させている事例として注目されている、「シックスシグマ」という経営改革手法とナレッジマネジメントを融合させた手法のコンセプトと実践例を紹介する。

本質を見失ったナレッジマネジメントの取り組み

 これまで非常に多くの企業がナレッジマネジメントへの取り組みを行ってきている。その規模や運用形態は企業によって様々であるが、その結果失敗している企業には大きく2つの特徴がある。一つは、「IT偏重のナレッジマネジメントの導入」であり、今一つは「概念論偏重のナレッジマネジメントの導入」である。もちろん、ナレッジマネジメントを導入する上でのITツールや概念論を否定しているわけではない。ITツールや概念論は非常に重要な要素になるが、これらに偏重した導入を実践したことで、「ナレッジマネジメントによって実現したいものは何か」といった本質を見失い、ナレッジマネジメントによる成果を出せないまま、投資を続けているのが現状である。

 IT偏重のナレッジマネジメントの導入をしてきた企業は、IT化の波と同時に繁栄してきたITツールベンダーやITコンサルタントの喧伝により、社内の情報を全てデータベース化し、その情報へのリーチを短くすることにとらわれて、検索エンジンやEIP(Enterprise Information Portal)の導入などを推し進め、多額のIT投資を行っている傾向が見られる。データベース化される情報は一方的に蓄積されるが、それらの情報が蓄積される必要性や各情報の再利用などについての議論はなされないまま運用が進められているのだ。これらの企業は、ITツールを導入することでナレッジマネジメントを実践していると誤った認識をしており、その失敗をITツールの使いにくさなどのせいにするケースが多々見られる。

 また、概念論偏重のナレッジマネジメントを実践してきた企業によく見られるケースとしては、企業のトップマネジメント層から「知識製造業になる」「知識経営を実践する」といった概念的なビジョンが発せられ、ミドルマネージャーや現場のスタッフたちが「知識製造業になるためには」といった議論を繰り返し、実践レベルに落ちていないことが非常に多い。また、「暗黙知を形式知化させる」「ノウハウを外在化させる」といった流行のキーワードに飛びつき、「わが社におけるナレッジとは何か?その中の暗黙知は何か?」「知識とは?情報とは?データとは?それらの違いは何か?」といった議論を繰り返し、実践的なナレッジマネジメントからかけ離れていき、前に進めない状態になる。

 こういったIT偏重、概念論偏重のナレッジマネジメントを推進している企業では、ナレッジマネジメントによる経営効果が見られない。なぜならば、ナレッジマネジメントによって何を解決し、どういった効果を生み出すべきなのか明確になっていないまま推進しているからである。これらの企業では、ナレッジマネジメントの目的が、「社員が情報を共有化するためにナレッジマネジメントを実践する」というように、ナレッジマネジメントの推進が自己目的化し、本来の目的やナレッジマネジメントによって解決すべき課題を見失っている。

成功する企業におけるナレッジマネジメントの位置付け

 一方で、ナレッジマネジメントの実践により明確に経営効果を生み出している企業もある。例えば、特殊化学品の開発を行う米国バックマン研究所では、全世界の製品研究開発者同士が議論をできる空間をイントラネット上に構築し、製品開発現場における課題解決速度を向上させることで、新製品の売上比率を10%から50%へと向上させた。

 米国テキサスインツルメンツ社においては、設計プロセスおよび製造プロセスでのBest Practiceを全世界へ横展開させることで、約4,000万ドルのコスト削減を実現している。

 また、米国フォードモーター社においては、業務上の課題やテーマごとに、全世界の拠点を横断したメンバーが議論や情報を共有する場(コミュニティ)を設け、コミュニティ内でのベストプラクティスを横展開させることで、約10億ドルの経営改善効果を創出した。

 これらのナレッジマネジメントの導入に成功を収める企業と失敗に終わる企業との間には、ナレッジマネジメントのとらえ方という点で以下の2つの違いがある。一つは、「狭義のナレッジマネジメントと広義のナレッジマネジメント」。今ひとつは、「経営課題におけるナレッジマネジメントの位置付け」である。

 ナレッジマネジメントに失敗する企業は、ITツールの導入への傾倒や、「暗黙知の形式知化」といったようなコンセプチュアルキーワードへの安易な傾倒があることを先に挙げたが、これらは「ナレッジ」=「データ」ととらえた「狭義のナレッジマネジメント」にフォーカスしたものであり、広義のナレッジマネジメントの一要素でしかない。

 それでは、「広義のナレッジマネジメント」とは何なのか。まず、ナレッジマネジメントとは、社員の持つ知識やノウハウを社員間で共有し、それぞれの社員が持つ経営課題を解決するのに必要な知識やノウハウ、ヒトそのものを動員させ課題解決することである。それによって個人が学習すると共に、組織として課題解決方法を学習するという行為を継続的に繰り返す「学習する組織」へと変遷することを目的としたものではないだろうか。


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